Rodenstock, Apo-Grandagon 4.5/35

エボニーSW23*1に取り付けた状態。リンホフ純正の17mm凹みボードにマウントしてある。凹みボード使用でもこれだけ短くしないと無限遠が出ない。無限遠が出ないカメラも少なくない。*2ちなみにこの画像のようにレリーズを前に回したまま撮影するとレリーズを写し込んでしまう。ちゃんと後ろに回さないとダメ。

4群8枚で、きれいな対称型。構成はよくあるビオゴン型に近い。異常低分散ガラスを使用しているとのこと。35mmはローデンシュトックの超広角レンズであるアポグランダゴンでもっとも焦点距離が短い*3。というか、6×9用レンズではこれより焦点距離の短いレンズは知らない。ひょっとしたらDigitarまたはDigaronで6×9をカバーする短いレンズがあるかもしれないが。公称イメージサークルは125 mm(F8~11)で、6×9判までをカバーしている。しかし現物を手にすると、125mmという公称はいくらかの余裕を持っているように思われる。およそ140mm程度までは使える。4×5のカメラに取り付けて確認したところ、無限遠ではやはり四隅にわずかながらケラレが生じる。しかしフォーカスを少し手前に合わせて絞るとなんとか4×5をカバーできるようだ。焦点距離35mmで被写界深度が深くかつ被写界は後方に長く伸びるのでこのような工夫をすれば4×5の超々広角レンズとして用いることもできないわけではなさそう。また6×12判ではシフトはほぼできないが幾分かのフォールとライズはできる。これだけのイメージサークルがあるので6×9判でのアオリは余裕を持って行える。しかし自在にアオリをしようと思うとカメラもそれなりのものを使わないとならない。僕の使っている広角専用機エボニーSW23(最短フランジバック46mm)に17mmの凹みボードでもかなり厳しい。ケラレないうちから蛇腹が無理になる。性能を最優先してきれいな対称型としたためだろうが、フランジバックをわずか43mmしかとっていないことからくる。Super Angulon 5.6/38 XLなら52mmものフランジバックがあるので楽だろう。この焦点域ではわずか9mmがとてつもなく大きな差となる。実際に撮影の際にまだイメージサークルがあるのに後玉が後枠にぶつかってアオれないことがあった。ただしそれだけアオると後述するとおりコサイン4乗則による減光が激しく工夫が必要になると思う。またイメージサークルが広い分だけ強い光源が入った時にフレアの原因になりやすいので気を付けなければならない。後述の通りレンズ由来のフレアは生じにくいがカメラ内部での反射はあり得るので。ワーキングアパーチャーはF8からだが、開放F値が4.5というのはやはりピングラ像が明るく構図を取るのが楽でよい。普段F5.6のものを使うことが多いが、F4.5と2/3段明るいだけでずいぶんやりやすい。これは標準レンズでApo-Digitar 4.5/90を使った時にも思ったことだけど、広角レンズではピングラの端が暗くなるのでなおのことありがたい。

外観で特徴的なのは前玉径に対してフィルター径が大きいこと。超広角レンズなのでケラレないようにでしょう。またコーティングの色は赤みがかっている。シュナイダーもやや赤みがかっていますがそれよりもさらに赤い。フィルター径は67mmになる。

さて、肝心の写り。持っている中で出番の多いSuper Angulon 5.6/47(MC), Makro-Symmar HM 5.6/120, Apo-Digitar HM 4.5/90に比べると若干甘め。ややシャープネスに劣るのはここまでの超広角だから仕方ないのかもしれない。ただし普通に6×7〜6×9判から半切~全紙くらいに焼くのなら問題にならない程度には十分にシャープ。Pro160NSを使ってテスト撮影した限りでは中心部はともかく周辺部ではフィルムの解像度を超えるほどの解像度は無い感じだが、常識的なプリントサイズなら十ニ分。Pro160NSはデータシートによるとチャートのコントラストが1:1.6で63本/mm, コントラストが1:1000で125本/mmだそうで、通常の被写体なら大体100本/mm程度の解像力と思われるが、そこまでは解像しないようだ。しかし中判用で100本/mmというのも相当の解像力で、ちょっと望みすぎですね。つまり僕のように大四つ切までしかプリントしない人間には十ニ分な性能がある。比較対象にしたシュナイダーのレンズがシュナイダーでも特にシャープなレンズなのでシャープさだけでは見劣りするのは仕方ないし、何よりも焦点距離と包括角度が違うのだから比べるのはおかしい話でもある。これらを知らない人は十二分にシャープだと思うはず。それに全紙以上でのプリントを目指すなら中判ではなくて大判に行くべきだとも思う。また周辺まで破綻しない安定した描写をするのは素晴らしい。色味は若干青いように思う。Super Angulonよりもさらに舶来レンズっぽい色合い。コントラストは良い。周辺の光量はコサイン4乗則にしたがって急激に落ち込んでいる。詳しくテストしたわけではないのでコサイン4乗則によるのか口径蝕によるのかは断定できないけれど、絞っても改善しないあたりはコサイン4乗則だと思う。コサイン4乗則に由来する周辺光量低下であるかぎり物理的な限界なのでグラデーションフィルターで何とかするかプリントの時に工夫するか*4しかない。またこれだけ周辺光量が落ちるとなると中心と周辺とどちらで露出を合わせるかも考慮しなければならない。基本的には周辺で露出を合わせておいて焼き込むのがいいでしょう。ディストーションは見当たらない。歪まない、ということだけで安心して使える。それほどに重要。特に優れている点はゴーストやフレアがほとんど出ないこと。夜景で光源を入れてこれはゴーストが出るかなと思ったカットにも出ていなかったということが何度かあった。超広角なのでフードは実用できず満足にハレ切りできないことも多いのでこれは特筆すべき長所です。

F16でもこんな感じで周辺落ちします。コサイン4乗則恐るべし。1cmほどライズしているので減光の中心が画面の中心から外れています。フィルムはフジのPro160NSです。コントラストの強いPro160NCとか使ったらもっと周辺落ちしそうですね。まあ僕はポジもProvia100Fがファーストチョイスなくらいでコントラストの強いフィルムはあまり使わないのですが。風景撮りでもPro160NSです。*5なお広角感が弱いと思う人もいるかもしれませんがそれはそのように僕が画面をコントロールしているからです。ちょっと変えると強く広角感を出してくれます。この一枚は20メートルほどしか映っている人たちからは離れていません。6×8判だとライカ判換算で大体18mm程度に相当する広角レンズです。*6それにしてもフィルムからスキャンすると凄くフィルムっぽさが強調されますね。プリントだとここまでは感じないのですが。この画像では中央やや右寄り縦に変な帯みたいなのが入っていますが、スリーブのままスキャンしたので、スリーブの傷がこのように影響しているだけです。写っている人の手元のお弁当もネガでは確認できます。それくらいにはシャープです。

結構な値段のするレンズですが買った甲斐はありました。これまでSuper Angulon 5.6/47MCが高性能で非常に気に入っているのでその惰性でシュナイダーのレンズだけ買ってきたのですが、ローデンシュトックも良いなあと思うようになりました。Apo Grandagonも各焦点距離ごとに揃えたいなあ。少なくとも私が買った35mmに関しては良いレンズですよ。他の焦点距離もこのくらいの性能ならば十分買いだと思いました。

デジタル化全盛の時代だけれど大判用のレンズはマウントなど関係ないので、いざとなればバラして電子シャッターに入れれば良いだけなので安心して買える。と思ってはいるけれど、デジタル撮像素子は大きな角度で入射する光に弱いようなので、将来6×8とかのデジタルバックがリーズナブルな価格で出てもこういうテレセントリック性を考慮しないレンズでは問題が出るかも。技術の進歩はどうなるかわからないものですが。ま、フィルムで撮れるうちはフィルムで撮ろうかなと思っています。どうせ現状ではデジタルバックなんて買えないし。

楽天市場ではこのレンズも売っているのか…通販て凄いなあ。でもこの商品写真は55mmのもの。よく見ると55mmって書いてあります。
[rakuten:cc-circus:10000381:detail]

*1:エボニーSW23に関してはこちら→http://d.hatena.ne.jp/atzhiz/20090508/1241786450

*2:私が確認したカメラでは、エボニーSW23、リンホフテヒニカルダン23、リンホフテヒニカルダン45で無限遠を出せます。エボニーGP69Fはこの凹みボードでは足りませんでした。

*3:55mmは4×5用だけど。ちなみに国内代理店である駒村商会のサイトでは55mm: 4×5, 45mm: 6×9, 35mm: 6×12となっているけど誤り。正しくは45mm: 6×12, 35mm: 6×9です。まあ短い焦点距離のものほど小さなフォーマット用ということで当然ですね。

*4:同じレンズで焼くというのと焼きこみというのと二通りの方法で暗室では調節できる。同じレンズで焼くという方はさすがに35mmで焼くのは難儀そうだけど。

*5:富士フイルムの中庸感度ネガで風景撮りをするなら普通はPro160NCですね。瀧本幹也はPro160NCを増感して使っているそうです。増感した方がヌケが良くなるからとのこと。雑誌で読みました。それにしても何でフジはPro160NS/NCを35mm判では販売してくれないんだろうか。Pro160シリーズはフジの旗艦的なシリーズだと思うから、35mm判でも出してくれても良さそうなのに。僕の場合は中判ではPro160NSとPro400ばかりなので同じフィルムを35mmでも使いたいのですが、Pro400しか35mmでは使えないので困ります。

*6:本当はライカ判換算という表現のしかたはあまり好きじゃないです。特にライカ判と6×9判を比べる時以外では縦横比も異なるわけですし。それにトリミングが基本であるライカ判とノートリミングで使われることが多い6×8、6×7、6×4.5判では比べるの自体無理があるように思っています。まあ、人に伝える時はこうするのが一番なんですがね。