New Mamiya 6 MF

魅惑のフォーマット、6×6

6×6判で写真を撮りたくなった。6×6判というのは歴史の長いフォーマットで、多くの名作がこのフォーマットで世に送り出されています。
手持ちでやりたいし、レンジファインダーが好きだし(目が悪いので一眼レフだとピントが見えない。また標準から広角を多用するので一眼レフよりもレンジファインダーが向いている)、露出計は内蔵していないと嫌だ。となるともうNew Mamiya 6しかありませんでした。別に後期型にあたるNew Mamiya 6 MFじゃなくてもよかったんですが、私が出会った状態の良い個体がたまたまNew Mamiya 6 MFだったのでNew Mamiya 6 MFの方を購入しました。確認しておきますが、MFというのはマルチフォーマットという意味ですね。別にAFという機種が存在するわけではないですね。オートフォーカス可能な機種はこのシリーズには存在せず、いずれもマニュアルフォーカスです。本当は新品が欲しかったのですが、既にディスコンしている製品なので中古しかありませんね。ハッセルブラッドの500番台にも40mmのディスタゴンがあるという一点で少し興味はあったのですが、レンジファインダーだという点を優先してNew Mamiya 6にしました。

レンズ

3種類ラインナップされていますね。50mm、75mm、150mmと広角、標準、望遠に一本ずつです。システムカメラと呼ぶには最低限必要な3本ですね。私はライカレンジファインダーはCLEを愛用していますが、こちらも28mm、40mm、90mmと三本だけが純正レンズとしてラインナップされています。どうにも地味なシリーズを買ってしまうのが私なようです。*1
75mmはたしかオルソメター。オルソメターでも開放F3.5を実現できるのですね。これは凄い。ここでハイスピードを追ってダブルガウスにせずに平坦性を追ってオルソメターを採用するあたりがマミヤらしい。そしてオルソメターでありながら開放F3.5をも実現するという欲張りなことをやってのけている。50mmはビオゴンタイプだったはず。これも対称構成が大好きなマミヤらしいレンズ設計。150mmは対称構成ではなかったはず。望遠では対称にこだわらない、というのはマミヤプレスのころから連綿としていますね。望遠ではディストーションが問題になることはほとんどありませんからね。合理的な設計方針です。
写りについてはマミヤらしいの一言です。よく解像し画面全体で平坦な画質を実現しています。現代カメラとして十分な性能があります。レンズの写りではなく写真に集中できるレンズです。
中判以上を使う人はボケ味について気にする人は少ない印象なのですが、一応書いておきますと、50mmと75mmはレンジファインダーの対称型レンズらしく素直なボケ方をすると思います。150mmはそのうち買おうと思っています。カタログによると150mmはボケ味にも配慮して設計したものだそうで、期待できます。
交換レンズに合わせて自動で対応するブライトフレームが出ます。ただ、ライカに慣れている人だとブライトフレームを切り替えるセレクターが無く、装着しているレンズ以外の視野はどうだったかと確認したいという時に不満を覚えるかもしれません。またこれもライカと比較しての話なのですが、フォーカスレバーが無いので、レバーの位置でピント位置を把握して二重像に頼らずに速写するということもできません。中判だとライカとは違う撮り方になるのは当然ではあるのですが。

「からくりマミヤ」



「からくりマミヤ」らしい細かいギミックの多いカメラです。まず目に付くのは沈胴機構。このおかげで薄くなり可搬性が非常に高まっています。この沈胴機構でずいぶんとコストが掛かったそうです。Mamiya 7では超広角43mmのラインナップも相俟って沈胴機構は省かれてしまいましたね。惜しい。もしもMamiya 7が沈胴できたらマキナ67は今ほどの人気は無かったと思います。あと、裏蓋の周りにモルトプレーンを貼っていないことも地味に高評価。十分な精度と適切な設計で組んであればモルトプレーンなんか貼らなくても遮光性能は確保できるのです。精度よく部品を作り組み立てるよりも、隙間をモルトプレーンで埋める方が簡単だからそれで遮光性能をなんとかしようという設計が特に新しめのフィルムカメラでは多いのですが(ハッセルブラッドでさえモルトプレーン貼りまくりだと聞きます。)、マミヤは愚直にモルトプレーンに頼らない方法を選んでいます。経年劣化がモルトプレーンに比べて格段に少ないので使う側としては安心できるものです。モルトプレーンに頼らないあたり、New Mamiya 6は十分な精度と適切な設計で組んであるようです。RBバックでもモルトを使わずに遮光性能を確保したものがありますね。このあたりは非常に凝ったカメラを多く生み出してきたマミヤらしいと思います。
「からくりマミヤ」としては何とかならなかったのかと思うのは、マルチフォーマットで6×4.5判も対応するということになっていますが、単純にマスクをしているだけで、巻き上げの変更はないために6×4.5判でも12枚撮り(120フィルム)となってしまっているところでしょう。この辺は四半世紀の時を経て富士フイルムがGF670で6×7/6×6判切り替えでついに成功しました。GF670だと6×7判では10枚撮り、6×6判では12枚撮り(いずれも120フィルム)を実現させました。大したものです。個人的には富士フイルムとマミヤが協業して中判カメラを作ってくれないかなと勝手に期待しています。フジノンレンズを載せてボディはマミヤだなんて、考えただけでヨダレが出ます。マミヤのボディとレンジファインダーの設計は本当に良いです。富士フイルムもマミヤも中判デジタルカメラをリリースしていますし(富士はGX680デジタルバック、マミヤはZDおよびZDバック)、この2社で協業して中判デジタルカメラを出しても面白いなと思っています。富士フイルムはレンズは良い(何しろハッセルブラッドのHシステムのレンズはフジノンです。)のですが、カメラのギミックなどボディの設計はマミヤの方が優れていると思います。マミヤのレンズも素晴らしいのですが、フジノンが好きなのです。マミヤのレンズはスタンダードな設計で高性能なレンズを作りますが、フジノンは特殊な設計をも駆使してハイスペックで高性能なレンズを作ります。
レンズシャッターなのでレンズを交換する時はフィルムが暴露しないように遮光幕で覆ってやる必要があるのですが、遮光幕を出した状態でないとレンズが外せません。そしてレンズ交換した後は遮光幕を収納した状態でないとシャッターが切れません。さらに沈胴させた状態ではシャッターが切れません。この辺のフェイルセーフがしっかりと組み込まれているのも凝ったことをしているなと思います。
New Mamiya 6はボディはエンプラ製なのですが、それでもしっかりと組まれているのが持ってみても分かるもので、質感も特に悪くないと思います。もっとも質感へのこだわりはほとんど無いのが私なので、他の意見を持つ人もいるかもしれません。何しろ私はライカ判はCLE、6×4.5判はフジカGS645シリーズを愛用するような人ですから。ただしビューカメラはエボニーを主に使っていますしコンパクトはTC-1を愛用しているので良い手触りなものも知ってはいるつもりです。
セルフタイマーも付いているので記念撮影にも使えますね。というか使っています。

ファインダー

50mmレンズの視野とほぼ一致しているファインダー視野です。6×6判なので当然ながらファインダー視野もスクエアです。マミヤ7と比較すると、若干倍率が低く設定されています。50mmと75mmを主に使用する私にはこの若干低めのファインダー倍率はありがたいです。ブライトフレームも二重像も明るく見やすいです。

使いこなしが必要な露出計

レンズが3種類しかないことは仕方ないとして、New Mamiya 6の最大の泣き所は露出計です。精度は十分なのですが、有害光の影響を受けやすいのです。空や天井の光を拾って露出がアンダーに出てしまうクセがあるのです。ライカ判ではミノルタCLEとかミノルタTC-1、中判では富士GS645Wなどを愛用している私ですが、これらはいずれもそれぞれ測光方式は違っても有害光の影響など受けにくく非常に使いやすい露出計であっただけにこのNew Mamiya 6の露出計の挙動には戸惑いました。空からの光を拾っていそうだなと思った時にためしに手で「ひさし」を作ってみると、露出値が1段くらいも変わります。室内で天井からの光も弱い時に同じことをしても露出値は変わりません。せっかくのAE可能な6×6判レンジファインダーカメラという利点を大きく殺いでいるのは否めません。ここだけは泣き所であると思います。初期型のNew Mamiya 6から後期型のNew Mamiya 6 MFに置き換える時にここは改良して欲しかったところです。ポジはほとんど使わないのですが、私はこのカメラの内蔵露出計だけでポジ撮りをしようとはあまり思いません。ただ、マニュアル設定だと中間シャッターを使えず、絞りも1段ごとのクリックでその回転角も狭いのでマニュアルシャッタースピードで撮るにもなかなか難しさを感じます。またネガ撮りでもアンダーに出てしまうのは問題です。
この露出計はファインダーに内蔵されているもので、もちろんレンズを交換しても測光範囲が変更されることはありません。ですから、50mmだとスポット的に中心部を、75mmだと中央重点的に、150mmだと平均測光的に測光することになります。またライカレンジファインダーカメラではTTL測光が主流で、レンズキャップをしたままだと露出がおかしくなってレンズキャップをしたままであることに気付けるのですが、New Mamiya 6ではファインダー内に入っているので気付きません。私はレンズキャップはほとんど付けないのでそんな失敗をしたことはありませんが、New Mamiya 6はじめTTL測光ではないレンジファインダーカメラではレンズキャップをしたまま撮影をして丸ごと無駄にしてしまったという失敗談は聞くので気を付けて下さい。

アクセサリ

視度補正レンズはマミヤ7およびマミヤ645と共通です。今も新品で買えるのでこれを使って下さい。中大判カメラコーナーがあるような量販店なら在庫していると思います。それらにアクセスできない地域に住んでいる人は、マミヤのオンラインショップでも視度補正レンズは扱っているのでここで買って下さい。レリーズ穴がありますが、これは汎用品の普通の機械レリーズを挿し込むだけです。電子カメラでは専用の電磁レリーズを使うものがいくつかありますが、New Mamiya 6では汎用品の普通のレリーズが使えますので、好みのものを使って下さい。アクセサリの規格を統一していてくれるのはありがたいことです。この辺はマミヤらしい気遣いだと思います。
他に細かいところではストラップが縦吊り横吊りともに対応していることも気が利いています。横吊りはカメラを正位置でぶら下げることができ、縦吊りは巻き上げレバーがストラップに引っ掛かることを防ぐことができます。好みでどちらでも使えます。私は巻き上げレバーが引っ掛かるのが嫌いなので縦吊りで使っています。ストラップを通す金具は通常の10mm巾に対応しています。
中古でレンズを探すと、フードが付属していないことがあるようです。50mmと75mmではプラスチック製のフードなので割れやすいためでしょう。*2しかしマミヤ7のものをそのまま流用できることがあるようです。私は50mmにマミヤ7用65mmフードをそのまま流用できることを確認済みです。50mmのフードとマミヤ7用65mmフードの両方を持っていますが、印刷されている文字を確認しないとどちらがどちらのフードだったか分からなくなります。ケラレも発生しませんし収納時の逆付けにも対応します。マミヤ7は現行製品ですので当然にフードも新品で供給されています。フードを割ったとかレンズを買ったけど付いてこなかったとかいう場合にはマミヤ7用のフードで代用して下さい。75mmの代用フードは探していませんが、どなたか情報をお持ちでしたらお寄せ下さるとありがたく思います。

勝手な願望

勝手な願望を述べさせてもらうなら、35〜40mmくらいの超広角を一本用意してあればシステムのレンジファインダーとして完璧だったと思います。やっぱりレンジファインダーなら超広角が一本欲しいなって思います。これはマミヤプレスのシステムを一式持っていて6×9判での50mmに親しんでいるからなおさらそう感じるのだと思います。またMamiya 7との比較で、Mamiya 7には43mmがラインナップされているのであれは羨ましいものです。まあ、6×6判で35〜40mmなんて超広角は実用性は低いのですが、引きが取れない時の保険として欲しいものです。ま、保険なんぞ掛けて写真を撮っても仕方ないのかもしれませんが。
またRB67とRZ67ではレンズに互換性があるのですが、Mamiya 7とNew Mamiya 6には互換性がありません。ここもなんとかしてくれたら嬉しかったなと思っています。Mamiya 7のレンズをNew Mamiya 6で使えたらそれは素晴らしかったと思います。せめて後発のMamiya 7でNew Mamiya 6のレンズが使えたらなとは思います。もっともイメージサークルの問題で無理だったのかもしれませんが。

まとめ

素晴らしい出来栄えのカメラです。6×6判のAE可能な(とは言っても先述したとおり私はあまりこの露出計を信用していません。条件が良ければ十分な精度が出るのですが、悪条件に弱いのです…)レンジファインダーカメラとして唯一無二の存在です。しかももともと軽量なレンジファインダーな上に沈胴機構を装備し可搬性に優れ、レンズも高性能です。
余談ですが、このNew Mamiya 6を開発した技術者は自分でNew Mamiya 6の一式を定価で購入したそうです。それだけ自信のある妥協なきカメラだったようです。せめて社員割引くらい使えばいいのに。マミヤが1984年に会社更生法による再生手続きを行ったあとの第一弾のカメラでしたが、かなりの気合いの入ったカメラだったようです。

ニューマミヤ6MF諸元

  • 型式: 6×6判レンジファインダー、レンズ交換、沈胴式カメラ
  • 使用フィルム: 120フィルム(12枚撮り)、220フィルム(24枚撮り)
  • 画面サイズ: 6×6判(実画面サイズ56×56mm)
  • レンズ(専用バヨネットマウント): 広角レンズ50mm F4(5群8枚、フィルター径58mm)、標準レンズ75mm F3.5(4群6枚、フィルター径58mm)、望遠レンズ150mm F4.5(5群6枚、フィルター径67mm)
  • 焦点調節: ヘリコイド式
  • フィルム送り: レバー1回巻き上げ185度(予備角30度)
  • シャッター: マミヤ#00レンズシャッター(電子制御)
  • シャッター速度: B、4から1/500秒、電磁レリーズ、X接点、(全速同調、ホットシュー及びソケット付き)、電子セルフタイマー(10秒)
  • 露出制御: 絞り優先AE、受光素子SPD(ファインダー内)、露出補正-2から+2EV(1/3EVステップ)
  • 距離計: レンズ偏角方式、実像式二重像合致、基線長60mm(有効基線長34.8mm)
  • ファインダー: 距離計連動ファインダー、ブライトフレーム自動切り替え(50、75、150mm)、パララックス自動補正、倍率0.58倍(ほぼ50mmレンズの視野に一致)、シャッター速度表示、視度補正レンズ交換可能(マミヤ645、マミヤ7シリーズと共通、標準で-0.8D)
  • 遮光幕: レンズ交換用ゴム引き式遮光幕付き
  • 安全機構: 二重送り、空送り防止、遮光幕が閉じているときレリーズ防止、沈胴時レリーズ防止、レリーズ防止時ファインダー内LED点灯
  • 電池: LR44またはSR44を2個(電池無しでは作動しない)
  • 大きさ: カメラボディのみ h155×w109×d69mm(沈胴時d54mm)、75mm付き d106mm(沈胴時75mm)、50mm付き d118mm(沈胴時d87mm)
  • 質量: カメラボディのみ 900g、75mm付き 1150g、50mm付き 1235g

*1:もっともCLEはライカMマウントと基本的に互換なので色々なレンズを取り付けることはできますが。私も主にCLEはコシナフォクトレンダーのレンズを取り付けて使っています。

*2:フードは金属製であるべきか樹脂製であるべきかは判断の難しいところです。金属製の美しさや破損の心配がほとんど無いことは魅力ですが、樹脂製の場合にはぶつけた際にフードが割れて緩衝剤になってレンズを保護する機能を期待できます。