フラットベッドスキャナGT-X970でのフィルムスキャン ― フィルムスキャンシリーズ第1回


(データは以下の通り。35mmフィルムのネガをGT-X970でスキャン。SilverFast Ai Studio 8で4800dpi設定、HDRi RAW 64bitのDNG生成。SilverFast HDR StudioにてiSRD機能でゴミ・キズ除去と48bit TIFF変換。CaptureOne v7にて67パーセント(3200dpi相当)に縮小とJPEG変換。
カメラはミノルタTC-1、絞りF3.5、フィルムは富士フイルムPRO400。少しExposureとカラーフィルターの調整に相当する程度の調整のみをしています。トーンカーブを細かく調整などはしていません。ゴミ除去作業はHDR Studioの自動処理のみです。CaptureOneでは縮小、AdobeRGB色空間からsRGB色空間への変換、JPEGへの変換のみ。ゴミ除去作業はさらに高品質を目指せば手作業で一つずつつぶしていくこともできます。4563×3035pxのオリジナルデータにもアクセスできるようにしています。
GT-X980 フィルムスキャンサンプル ダウンロードエプソンによるGT-X980でのフィルムスキャンのサンプルを見られます。これと比較して僕の作例はいかがでしょうか。
なお、撮影地は富山県片貝川洞杉群生地です。車を使えばアクセスしやすいところで立派な杉をたくさん見られます。巨木鑑賞が好きな人にはオススメのスポットです。)

GT-X970をSilverFastで動かしてフィルムスキャンをしています。僕のやり方を紹介します。
原稿は6×6判、6×7判、6×8判のネガが主です。3200dpiでもフラットベッドスキャナにしては十分な結果を得られているので、135フィルムのスキャンもできると思います。オーバーサンプリングの考え方でスキャン解像度は4800dpiにしていますが、3200dpi程度まででこのスキャナで得られる情報の上限に達していると思います。この3回シリーズでは作例は高解像度でも巨大なファイルになり過ぎないように35mmフィルムのネガを使っています。
僕が今やっているやり方では、ニュートンリングからは解放されます。まず出ません。ニュートンリングはかなり見苦しい上にデジタル的な後処理で消去するのも難しく、非常に厄介なものです。このニュートンリングに関する悩みは解消しています。フラットベッドスキャナでのフィルムスキャニングではニュートンリング防止のためにアトラスパウダーを使ったりオイル塗りやったり工夫は伝え聞きますが、僕はそれらの必要性は感じなくなりました。オイルを塗ったりすることで、僕が今やっている以上の結果を望むことも可能だとは思いますが、掛かる手間を考えると今やっているやり方で十分だろうと考えいます。ニュートンリングは出ていません。残るは埃・傷ですがこれはニュートンリングに比べるとデジタル的な後処理で除去しやすいものですので、あまりに酷くなければ許容できるものだと思います。

長くなっているので、3回に分けています。1回目にはハードのGT-X970に関する話、2回目にはドライバのSilverFastの話、3回目にはGT-X970 with SilverFastで得た画像をSilverFast HDR Ai Studioで処理する話です。GT-X970については既に製造終了ですが、改良版のGT-X980についても似たようなものだと思われます。ただし複数回のスキャンをして一つの画像ファイルを生成しているのでその都度のウォーミングアップ動作が大幅に短縮されているので快適さはとても増しているものと推測します。SilverFastについてはさほど特殊な使い方はしていないので他のスキャナ、特にフラットベッドスキャナを利用している人には参考にしてもらえるのではないかと思います。HDR Ai Studioについては正直なところ使いこなしていませんが、Tiffで保存するよりも後で処理する幅が格段に広いのでDNGで保存してGT-X970で得られた情報の限り自在に調整するために必要です。Tiffからの仕上げ編集でCapture Oneを僕は使っていますが、Adobe PhotoshopLightroomでもよいでしょう。僕がCapture Oneを好きなのでCapture Oneを使っているというだけです。

去年から今年にかけて、フラットベッドスキャナやインクジェットプリンタではアマチュアでも手の届く価格帯のクリエイティブ用途向けでいくつか新製品が出ています。GT-X970からGT-X980へのモデルチェンジがあったことや、プリンタではPX-5VからPX-5V IIへ、PRO-100とPRO-10からPRO-100SとPRO-10Sへとのモデルチェンジがありました。あまり大きな変更は無かったのでやや残念なところはありますが、良好な性能をもともと有しているためにこれ以上を望むのならばコストを掛けなければならないということなのでしょう。

作業工程の分割

実際の作業工程は

    • フィルムをスキャナにセッティング
    • スキャンしDNGファイルを生成
    • DNGファイルをHDR StudioでTiff変換
    • TiffファイルをCapture Oneで編集、JPEG変換

と分けています。手間暇掛かっていることは掛かっていますが、一度にJPEGにまで作り切ってしまうよりも工程を分けることで各工程まで戻ってやり直せるので便利だと考えています。手戻りできる限りはできるようにしておく方が良いと思います。PCのRAMが16GB以上を比較的手軽に使えるようになった今、SilverFast Ai Studio、HDR Studio、Capture Oneを同時に立ち上げつつネットブラウジングも同時にしていても実用的な速度で動作できます。

スキャンそのものに掛かる時間はだいたい次の通りです。

    • ウォーミングアップ : 20秒
    • スキャン一回目 : 50秒
    • IRスキャンウォーミングアップ : 20秒
    • IRスキャン : 70秒
    • MEスキャンウォーミングアップ : 40秒
    • MEスキャン : 150秒
    • 後処理・保存 : 15秒

GT-X970とSilverFastスキャナソフト

なお、SilverFastを使っても必要に応じてEPSON Scanも使えるのでそこは安心しておいてください。PC内に問題無く同居します。文書のスキャンにはEPSON Scanの方が僕には使いやすいので使い分けています。
このSilverFastはEPSON Scanでのフィルムエリアガイド利用相当の動作になるのですが、GT-X970側でスキャンに使うレンズはフィルムスキャン用のレンズになるようです。GT-X970/GT-X980ではデュアルレンズシステムと謂って、フラットベッド面より0.5mm以内とごく近くピントを合わせる文書スキャン用のレンズと、フラットベッド面から浮かせたところにピントを合わせるフィルムスキャン用のレンズの二系統を搭載して使い分けます。GT-X700シリーズとのハードウェア面でのGT-X970の大きな違いはこのデュアルレンズシステムです。フラットベッドスキャナなのでどちらのレンズを使っても被写界深度は深くとっているようで、いろいろ試してみると1mm程度の被写界深度があるように思われます。このデュアルレンズシステムなのですが、EPSON ScanではGT-X970でフィルムエリアガイド使用ではフィルムスキャン用ではなく文書用のレンズを使ってスキャンすることになります。そのためにフラットベッドにベタ置きすることになります。SilverFastにおいてはフィルムスキャン用のレンズを使ってスキャンするためにフラットベッドにベタ置きでは大きくピンボケになるので、フィルムホルダを使って少し浮かせてセッティングする必要があります。少し浮かせることでニュートンリングの発生も無く埃の影響も軽減されます。ちなみに、深い被写界深度を得るために大きなF値にしているものと思われますが、光学が教える通り当然に大きなF値にすると限界解像度は落ちます。実際にスキャン結果でもややぼやけたようになります。やや斜めにネガ原稿をセットしてどこかにはピントが合うようにと試してみても、シャープさがピークの部分でも2400dpiを超えた高解像度ではややぼやけたような感じは残るので、これは光学的な解像限界ということでしょう。なお、フィルムスキャン用のレンズと文書スキャン用のレンズで著しい性能差があるようには僕は感じていません。

  • フィルムスキャン用のレンズ: フラットベッド面から3mm程度浮いた面にピントが合う。赤外線による埃・傷検出(Digital ICE Technology)を使える。
  • 文書スキャン用のレンズ: フラットベッド面から0.5mm以内のごく近くにピントが合う。赤外線による埃・傷検出を使えない。
  • フィルムホルダ使用: 少し浮かせる。ニュートンリングが発生しない。埃の影響が少ない。
  • フィルムエリアガイド使用: フラットベッドにベタ置き。ニュートンリングが発生する。埃がフラットベッド、フィルム、おさえガラスの各面に乗りうる。
  • SilverFast: フィルムスキャン用のレンズを使う。
  • EPSON Scan: フィルムホルダ使用時にはフィルムスキャン用のレンズを使う。フィルムエリアガイド使用時には文書スキャン用のレンズを使う。

まとめると上述のようになります。SilverFastでフィルムスキャン用のレンズを使うことにして、ニュートンリングと埃の影響を抑えることに僕はしました。また、フィルムスキャン用のレンズの場合には赤外線による埃・傷検出を使えるので、より埃の影響を抑えられます。そうすると浮かせてセッティングする必要が生じます。浮かせてセッティングするとフィルムの平面性に問題が生じます。解決策としてガラスでおさえることが現実的になります。ガラスでおさえるにも両面で挟み込むのと片面に添えるだけとありえます。僕が試した限りでは片面に添えるだけで6×8判では十分な平面性を苦労せず確保できるようだったので、片面に添えるだけにしています。なお、フィルムは堀内カラーで処理してもらっています。反りが少ない綺麗な現像をしてくれます。堀内カラー店頭でも受け付けてくれますが、面倒くさいのでビックカメラ経由で出していて、120フィルム1本税別500円、220で700円、120の1段増感で1本税別600円、220の1段増感で1200円、それぞれ10パーセントビックカメラポイント還元と特に高いということはありません。何回かに一度は現像代をポイントで支払ってしまえます。

解像度設定は4800dpiにしています。はっきり言って過剰なのですが、解像しない程度までのデジタル解像度で読み込んでから後処理でデータを落とす方が結果が良いので4800dpi設定にしています。ドットバイドットで鑑賞に堪えるのは2400dpi程度と考えています。ちなみに2400dpiで6×8判をスキャンすると8000万画素超になるので十分な高解像度かと思います。135のライカ判ですと1800万画素程度になります。

また、このGT-X970に限らず民生スキャナでは適正よりあまり濃いネガの階調は拾えなくなります。これは光源の能力のためと思います。より強力な光源をネガ濃度に合わせて調整しながら使うプロラボのスキャンでは見違えるような結果を得られますが、あまりに濃くしたネガではもともと写りに問題が生じやすいのでほどほどを心掛けるべきでしょう。また、プロラボのスキャンでは結構な費用が掛かります。ドラムスキャナは当然、プロ用であればフラットベッドスキャナでも結構な費用になります。これは手間と使うスキャナの能力と価格を考えるとごく正当な対価だと思いますが、その正当な対価を支払い続けるだけの経済力は僕にはありません。GT-X970でも必要なレベルの出力は得られるのでこれで良しとしています。もちろん目的によってはプロラボによるスキャンを検討するべきだと思います。

僕の自作ホルダー

僕はネガの露出具合を視覚的に見たいので、基準としてフィルム端の印字部分も一緒にスキャンしてしまいます。印字部分も含めてのスキャンのためには市販のホルダーでは不都合だったので、簡単なホルダーを自作しました。材料は3mm厚のゴム板と0.5mm厚の厚紙と無反射ガラスです。これで十分に満足行く結果を得られています。構造は非常に簡単で、黒厚紙と貼り合わせた3mm厚のゴム板を6×8判1コマ分にやや余裕を持たせての61×80mmで切り抜いているだけです。鉄などの金属で作る方がより良いと思いますが加工しやすさで柔らかい材料を使っています。ゴム板に厚紙を貼り合わせているのは、ガラスにぴったりと貼り付くようになるよりも少しアソビがあった方が取り回しやすいからです。このホルダにコマを合わせてフィルムを載せて上からガラスでおさえるだけです。これでフラットベッドスキャナの深い被写界深度があれば3200dpi以上のスキャンでも堪えるだけのものになりました。

Digital ICE Technology

あまり詳しくは触れませんが、Digital ICEは有用なものです。埃や傷の影響を減らせます。ただし画像を得るための可視光のフィルムスキャンと埃・傷検出の赤外線のフィルムスキャンと2回のスキャンをすることになり、時間がかかります。しかも2回だから単純に2倍とはならず赤外線のスキャンでは可視光のスキャンよりも時間が掛かる上に検出した埃・傷の処理に数十秒掛かります。スキャンに時間が掛かっても埃・傷の処理の助けになるので総作業量は減らすことができています。
Epson Scanでは埃・傷の除去をするだけですが、SilverFastでは検出した埃・傷をマークしておいて、得られたTIFFやDNG画像から手作業で処理もできます。

僕は実物を全く知らないが、興味はある製品の紹介(RW V-Scan System)

なお、さらにこだわる人のために製品の紹介をしておきます。僕はこの商品について何の利害関係もありませんが、非常に理にかなったものだと思いますので、興味のある人は検討して下さい。脇色彩写真研究所RW V-Scan Systemです。バキュームホルダです。本当はこれを買うつもりだったのですが、僕は自分なりのやり方で十分な結果を出せるようになったので買う必要性を感じなくなりやめました。誰か僕に提供してくれれば喜んで試させてもらいますが、10万円する製品なので、それなりにやる気のある人向けだと思います。まあ、中判レンズが20万円することを考えれば悪くはない値段なのかもしれません。僕は現物で確認していないので断言はできませんが、既製品で優れたものが欲しい人にはとても好ましいものである可能性が高いと思います。特に4×5判以上になると平面性がかなり心配なのでこの製品が有用である可能性は高まると思います。エプソン純正ホルダやBetterscanningホルダを使ったりフラットベッドベタ置きと違って、RW V-Scan Systemでは1枚ずつセットすることになるようなので、作業量は増える可能性はありますが、一発で平面性を確保できるのなら結果的な総作業量は減るかもしれません。重ねて言いますが、試すどころか現物を手にとってもいないので「かも」「おそらく」というだけの話です。こういう製品もあるよと知ってもらうことはよいことだと思うので紹介しているだけです。このRW V-Scan Systemホルダーの評判は全く知らないので、誰か使ってみてくれれば面白いところです。それか誰か僕にくれれば使ってみたいと思います。