Ebony SW23


写真がイマイチですみません。コンデジでさっさと撮ってその後撮り直していないので…そのうちもうちょっと見れる写真に差し替えます。ボードの押さえにテープが貼り付けてあるのは、一度カメラを三脚に据えたまま肩に担いで歩いていたら(良くない運搬方法です。きちんと三脚から降ろしてから運搬しましょう。)ボードの締め付けが緩んでレンズを落としそうになったので、それ以来テープで念の為くっ付けているからです。見栄えは悪いけど。

Ebony SW23というカメラ

私の使っているカメラについて。何台か中判カメラを持っているんだけれど、ほぼEbony SW23一台でやってる。ビューカメラタイプなんで使い方はほぼ大判カメラと同じ。なんでこんなカメラを選んだかというと、私のプリントサイズから言って中判で十分なんですよね。それに歩いて撮るものを探すので装備はなるべく軽くしたい。しかしアオリはフルに活用したい。そうすると中判のビューカメラを選ぶことになった。このSW23は三段伸ばしのレールを持つ折り畳みできないタイプのフィールドカメラ。組立て暗箱とはかなり違う構造を持っている。ワイド専用機になる。フランジバックは46-157mm。私は主にSuper Angulon 5.6/47 MCを取り付けて使っている。ちなみにこの組み合わせだと蛇腹には余裕が大きい。なにしろ平ボードでも45mmくらいまで短くできるカメラに凹みボードでフランジバックが45mm程度のレンズを使っているから。120mmくらいのレンズまでは平ボードで使えるので、ワイド専用機とは言いながら標準レンズまでは使えます。私はカメラバックアダプター692を持っているのでもう少し長いレンズまで使えます。90mmの延長になります。ちなみにメーカーのHPでは38mmレンズでも平ボードで使用可能と謳っていますが、これはSuper Angulon 5.6/38 XLを想定してのことだと思います。Super Angulon 5.6/38 XLはパワーを前後で偏らせてフランジバックを52mmと長くとっているために、最短フランジバックが46mmのこのカメラでも平ボードで無限遠が出るのです。Super Angulon 5.6/38 XLのライバルであり、私の愛用レンズであるApo Grandagon 4.5/35ではフランジバックが43mmなので無限遠は凹みボードを使用しないと出ません。Super Angulon 5.6/38 XLとApo Grandagon 4.5/35で迷ったのですが、性能を優先してフランジバックが短く扱いにくくてもApo Grandagon 4.5/35にしました。私は65mm以下のレンズは全て凹みボードに取り付けているのでApo Grandagon 4.5/35でも不便を感じたことはあまりありませんが。*1

中判ビューカメラの欠点と利点

中判ビューカメラすべてに言えることとして、大判カメラよりも操作性は悪いです。まずピングラが小さいので構図をとりにくい。4x5サイズくらいあると楽なんだけど、2x3サイズではちょっと小さい。それにシートフィルムなら挿し込むだけで撮れるけれど、ロールフィルムを使うとバックをいちいち取り外して付け替えて撮らなければならないので面倒です。

またポジで撮るにもロールフィルムで撮る限り裏表で同じ露出で撮っておいて片面の現像結果を見て増減感するということもできない。大名刺判のシートフィルムは富士フイルムが今もPro160NSとネオパンACROSを売っているとは言え、ポジじゃなければそんなことをする必要もないわけで。

2x3ビューカメラについてはこの辺を読むと面白いでしょう。→http://www.largeformatphotography.info/23view.html

これら全ての欠点を認めた上でもなお中判の軽量さを買って中判ビューカメラという選択肢を採っています。また大判に比べてフィルムが安上がりであるということ、暗室でのフィルム装填作業(大判でもクイックロードを使えばやらなくても良いですが。)をしなくてもよいこと、被写界深度が深いことも利点でしょうか。

Ebonyのnon-foldingのカメラ

Ebonyではnon-foldingとfoldingのカメラに大別される二つのタイプのカメラを用意している。日本語版HPではきちんと書いていないけど、英語版HPを見てもらいたい。foldingタイプというのはつまり組立て暗箱。foldingタイプといっても普通の組み立て暗箱の構造を持っているものとSVのように特殊なものとがあるようです。foldingタイプのエボニーのカメラは使ったことがないのでノーコメント。
Ebonyのnon-foldingタイプのカメラはフィールドカメラにモノレールタイプの使いやすさを与えようとしたカメラだと思う。そしてその意図は成功している。私の使っているSW23では後枠ではフォール(後枠を上に持ち上げる)以外は全て省かれているけれど、前枠では全てのアオリ操作が可能だし、しかも組み難いはずのセンターティルトを装備している。実際に操作してみるととてもカッチリとしていて、頼もしい組み上がり。操作も滑らかで使っていてストレスを感じない。このnon-foldingタイプが他社の通常の組立て暗箱とはまったく別種の機構のカメラだということはもっと強調されて良い。
蛇腹は本革蛇腹。すぐにヨレヨレになるけれど、実用上は問題ない。というか、革ってそんなもん。寒くても固くなりにくいのは良いところ。ただ張り替えには結構な金額が掛かる。このSW23の蛇腹をエボニー社に依頼して張り替えた時はたしか4.5万円しました。
ちなみにSW23は中判カメラですが、三脚ネジは大ネジ(3/8インチ)です。私は中型雲台に載せているので1/4→3/8変換アダプタを使っています。

感想

私は概ね満足しています。Photo.netとかLarge Format Forumとか、ネット上の海外の大判写真のフォーラムを覗いても、エボニーのカメラは褒められている。ディーラーもこの辺のフォーラムには出入りしているけれど、ちゃんと自己紹介した上でだから意見に偏りをもたらしてはいないと思う。
日本の某大判写真家がエボニーがシナるとか木だから水に弱くて駄目だとか言っているけれど、その割には彼はタチハラを薦めているのは理解できない。心づけが足りなかったのだろうかと疑りたくなる。エボニーは木製カメラの軽さを保ちながら最高の品質を実現していると思う。さらにその某大判写真家は写真塾のようなことをやっているが、エボニーよりも金属製ということでテクニカルダンを買うように指導していた。私はリンホフテクニカルダンは23ではなく45の方のモデルを購入ししばらく使いましたが、操作性ははっきりとエボニーに劣りました。エボニーの方がはるかに完成度の高いカメラです。この経験からテクニカルダン23も購入したいとは思いません。それにカメラが湿って問題が出るような使い方をしたらレンズとフィルムが無事とは限らない。雨の中使うのならまずは普通に防水対策を。金属製だからってニコンFやペンタックス67を雨ざらしでは使わないでしょう。私はリンホフのカメラも使いましたがこれも雨ざらしでは使いませんでした。木製カメラを水に弱いからと忌避する人がいますが私には理解できません。カメラ以上にレンズは水に弱い部分です。実際に私はこのSW23で雨の中の撮影を何度もやっていますが、それなりに防水しているので問題を感じたことはありません。

ちなみに黒檀は密度が高いので杉などとは違って吸湿による変化は最小限に抑えられるそうです。また変形が最小限に抑えられる柾目のものを使用しています。それととにかく黒檀は硬いので頑丈です。上の写真でも私がいかに酷使しているかは分かってもらえるでしょうか。恐らく中古に出すとB級品(機能上の欠陥は見当たらないが酷使されたもの)になると思います。ピングラも傷付いているし、前後枠にもスリ傷が付いています。でもまだまだ使えると思います。頑丈なので私のように酷使するタイプには向いていると思います。多くの他の木製カメラで使用されている朱利桜も堅い木材ですが、それよりも黒檀ははるかに堅く、変形も少ないようです。その分黒檀は比重が大きくやや重くなりやすいのですが、エボニーのカメラは軽量に仕上げられていて素晴らしいです。

私も初めてこのカメラを手にした時にはその出来栄えにはちょっとした感動を覚えました。まあ、触った感じの感動はディアドルフの方が上でしたが。国産メーカーで現行製品であること、ディアドルフよりは安いこと、ディアドルフの2x3は無いことなどからエボニーになりました。予算の問題を抜きにすると、エボニーを避けて金属カメラを選ぶ理由は、軽量であることが重要なフィールドカメラにおいては私には見当たりません。

このカメラのライバル機種は2x3判の高級機種になります。私も所有していますがArca-Swiss F-line 23や、持ってはいませんがToyo VX23DやTechnikardan 23などになると思います。*2いずれも金属製でこれよりは重くなりますが、金属ならではの組み上がり精度の高さや安心感は得られると思います。Arca-Swiss F-line 23は後述の僅かなガタもありません。

わずかに不満な点をあげると、ピント合わせのレールにわずかにアソビがあるせいで、ネジを締め込んでも関係なくガタつく点。これは機構上どうにもならないところはあるし、他のカメラでも同じで、金属フィールドカメラを含めてもそう。モノレールタイプのジナーP系やホースマンL系ではないけれど、さすがにカメラの用途が違い過ぎて比較にならない。でもまったくガタのないカメラを謳っているのがエボニーなので、ちょっとなあ、と思う。特に長時間露光する身としてはこれは問題。実際の撮影では前枠のガタによってブレた経験は無いのだけれど。むしろフィルムが浮いてブレたことはある。これは露光直前に巻き上げるようにするという運用面の改善で問題なくなりました。

他の不満は、前枠のシフト・スウィングをしてロックを締め込むと前枠がかすかに動くこと。これも機構上難しい点だが気にはなる。

逆に言えばこれら他のカメラも持っている問題点しか問題と感じないあたり、優れたカメラと言えるかもしれない。

レンズボードはリンホフの4x5ボードというのはありがたい。リンホフ2x3ボードよりも入手が楽だし4x5とも共用できる。もともと小柄なリンホフボードなので2x3でも大きすぎるボードだということもない。むしろ広角専用機であるこの機種では凹みボードと組み合わせて使うことが多くなると思うけど、リンホフ2x3ボードでは小さすぎて0番シャッターでも凹ませられないので、4x5のボードを採用しているのは良いと思う。私は65mm以下のレンズは全て凹みボードで使っている。バックは2x3のグラフロック規格。つまりマミヤRBバックやホースマンのが使える。バックの締め込みも甘い感じは無く安心感がある。

まとめ

多少お金を払っても高機能・高性能・高信頼性なフィールドカメラが欲しい人はエボニーのカメラを検討してもいいと思う。私は残念ながら2x3のモデルしか所有していませんが、4x5のモデルも店頭で触った限り2x3のモデルと同じく高い完成度を持っていると思いました。2x3から4x5や8x10は勿論、11x14や20x24までを標準モデルとして用意しているし、当然特注にも応じてくれる。エボニーが欲しくなった人は他に代えの利くカメラもそうそうないので結局買うかずっと心のどこかに欲しいなあという気持ちが残るでしょう。私も今使っているこの個体がガタが来たら同じカメラで買い換えようと思っています。

*1:その後、Super Angulon 5.6/38 XLも購入してしまいました。何やってんだか。

*2:その後、Technikardan 23を購入しました。が、やっぱりSW23を愛用しています。