上田義彦写真集 "QUINAULT"

私に世界の物語はいらないし,私の物語で世界を見ようとは思わない。ただ私を震わせる出来事(事実)だけが写る事を願っている,そしてストレンジャーである事が事実を見つめる事が出来る私の唯一の立場であり,カメラを持つ私は,常にストレンジャーなのだから。

(写真集”QUINAULT"の諸言より引用)
これは風景写真の写真集ではないというのは強調しておいて良いと思う。
上田義彦にとっては出来事と事実がわざわざ同じこととして扱われているのは興味深い。なぜこの二種類の単語を一文の中に登場させ、そうでありながらそれらは同じことであると括弧書きで示しているのだろうか。

上田義彦は被写体を選ぶ力がずば抜けている。そしてその被写体から写真として魅力を引き抜いて、自分の視線をカメラによって定着できる。コマーシャルの写真家であるが、そのたしかな技術と視線が作品に見事に現れている。そして同時にとても伝統的な写真の撮り方をしていて、奇を衒わないでいながら写真は衝撃的である。技術があるということの強みが存分に発揮されている。

青幻舎から出版されている。品切れしていたがG/P Galleryでの展示を機会に再版した。青幻舎のウェブサイトから直接購入できる。僕は実際に最近購入した。プレミアム価格のついている旧版を買う理由は特に無いだろう。G/P Galleryで見た旧版と僕が最近購入した再版とでは特に違いは無いように思う。厳密に比べたわけではないので、ひょっとしたら違いはあるのかも知れないが、青幻舎ではそのようなことは特にアナウンスしていない。
この写真集は変わった装丁になっている。全頁袋綴じのようになっている。多分一枚の紙に裏表で印刷すると裏うつりするのを嫌ったのだと思う。印刷のクォリティも非常に高い。8000円するけど出す甲斐はある。美しい写真集です。
青幻舎のQUINAULT販売ページ。
以前見てきたG/P GalleryでのQUINAULTの展示についての私のエントリー

クゥィノルト―上田義彦写真集

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