FUJICA GS645 Professional


富士フイルムの蛇腹折り畳みカメラですね。最近GF670というより大きなフォーマットのものが発売されましたが、私は小型であることを優先してこちらを愛用しています。また富士フイルムではかつてフジカシックスという6×6判の蛇腹折り畳みカメラも出していましたね。GS645もGF670も正式な名称ではProfessionalというのが付いていますが、いずれも趣味性の高いカメラです。しかしレンズ、露出計、巻き上げというカメラの基本要素はProfessionalという名に恥じない出来です。
私は横位置ばかり撮るので蛇腹ならマキナかGF670が良いかなとも思いましたが、セミ判の小ささが個人的に優りました。セミ判のレンジファインダーカメラではカメラを正位置にして撮ると画面は縦長になるものしかありません。横位置でばかり撮る私にはここが不便なのですが、我慢できないほどではありません。カメラを正位置にして画面が横長になるセミ判があれば喜んで買うのですが、無いものは仕方ありません。6×9判とセミ判の関係に等しいのがライカ判とハーフ判ですが、ハーフ判ではコニカレコーダーがフィルムを縦送りにしてカメラを正位置で画面は横位置です。このようなレンジファインダーセミ判カメラがあれば嬉しいのですが。ちなみに風景写真を撮る時は画面を横位置にすることも多いと思いますが、GS645とGS645Wにはカメラを正位置に構える三脚穴しかありません。GS645Sにはカメラを横位置に構えて画面を横位置にする三脚穴があるのですが。
作品撮りのような気合いの入った撮影にはNew Mamiya 6を用いているので、気軽な中判カメラとしてはセミ判が良いなと思ったのです。それにマキナ67に比べるとこちらの方がずいぶん安く取引されていますし。GS645のバリエーションモデルである45mmのワイドレンズを付けたGS645Wを先に持っていて気に入っていたのもあります。(GS645Wについてはこちら→http://d.hatena.ne.jp/atzhiz/20090412/1239541176)それから上野のアメ横カメラに普段からお世話になっているのですが、ここがGS645シリーズが得意であって信頼できる整備状態の個体を安く購入できるし整備も安く行ってもらえるというのもあります。もちろん蛇腹の交換もやってくれます。21000円からです。富士フイルムによる修理は終わっているようで、このために特に蛇腹に関しては修理できないという噂があります。しかし、実際にはこのように修理ができます。アメ横カメラに行くと運が良いと富士フイルムを退職したGS645の修理を請け負っている技術者に会えるそうです。アメ横カメラの回し者かって感じですので、一応書いておきますと、中野の日東商事でも同じところに修理に出しているそうですので、中野の方がアクセスが良いという方はそちらに行かれてもよいでしょう。
FUJICAというブランドは1980年代に発売されたGS645シリーズを最後に終了してしまいました。当時はマキナ67がまだ新しい方に入るカメラでしたし、ライカM6も発売されて間もない頃でした。機械式カメラの最後の煌めきが灯った時代でしょうか。私はその頃にはカメラなんてまったく興味を持っていませんでした。
いずれはマキナも手に入れたいとは思ってはいますが、まだ当分先のことになるでしょう。
さてこのカメラの特徴についての話をしていきましょう。

レンズ

まずこのカメラの大きな長所はレンズです。クセノタータイプのようです。これが解像力が高く画面全面で均質な像を結び歪曲収差もごく少なく発色もとても自然で良いのです。開放から良い像を結び、絞ってもほとんど描写は変化しません。EBCフジノンらしい良いレンズです。味が無いことが特長であり、レンズでは無く写真に集中できるレンズです。
好みの問題ではあるのですが、私は6×6判で75mmを標準レンズだと考えていますので、6×6判よりも横幅が切り詰められた6×4.5判のこのカメラでは焦点距離を少し短くして70mmにして欲しかったなということは少し思っています。ただしNew Mamiya 6の75mmのレンズよりもこのレンズの焦点距離は少し短いのではないかと思っています。アサヒカメラのニューフェース診断室でも75mmよりも実焦点距離は若干短いという記述があったように記憶しています。

露出計

これは優秀な露出計です。有害光の影響もほとんど受けません。信頼できます。ポジ撮りも厳密にでなければ(私はポジ撮りする時は1/6段刻みで露出をコントロールします。普通はここまで厳密にやらないのでまあ問題無いでしょう。)内蔵露出計で出来ます。
シャッター半押しで測光します。LEDで+、○、-が表示されます。+で1段以上オーバー、+と○が同時に表示で1から1/3段オーバー、○のみで適正、-と○が同時に表示で1から1/3段アンダー、-のみで1段以上アンダーです。どこまでの露出の精度を求めるかにもよりますが、反射式の露出計なのでもちろん被写体の色に合わせて露出を変えることは必要です。

折り畳み

折り畳むことでとても小さくなります。これは日常使いのカメラにするにはとても大きな利益をもたらしてくれます。また山岳写真を撮る人にも利益は大きいでしょう。
この折り畳みにはお約束があって、

  1. 巻き上げる(フィルムを巻き上げてシャッターをチャージする)
  2. レンズのピントを無限遠に設定する
  3. レンズ横のトリガーを指二本でしっかり押し込んで畳む

という手順を踏む必要があります。この特に最初の二つのステップを怠って無理に折り畳もうとすると壊れます。なおこの二つのステップを踏まないとロックが掛かって折り畳めなくなっているのでそこで気付けます。最後の三つめは一度や二度では問題無いけれど何度も乱暴にたたむとダメージが蓄積していくとアメ横カメラで注意されました。
蛇腹は折り畳んだ状態だと折り目がきつくなっていてストレスが掛かった状態になっています。ですから防湿庫にしまう時には展開した状態で入れることをすすめます。リンホフテヒニカを使っている人は蛇腹を外して保管するのが多いのですが、それと同じ理由です。防湿庫に入れない時には畳むべきかどうか悩ましいところです。シャッターボタンとレンズシャッターのリンク機構が蛇腹のすぐ横にあるのですが、これが剥き出しになっていて、ホコリなどの影響を受けやすいのです。展開したままでホコリがのらないように置いておくのがよいでしょうか。

操作系

蛇腹の折り畳み式でありながらセルフコッキングも導入されていて現代カメラとしての基本機能を備えています。
レンズシャッターの機械式カメラでは当たり前のことなのですが、絞り、シャッタースピード、ピントリングがレンズの周りに集中しているので操作には少々慣れが必要かもしれません。レンズシャッターの機械式カメラに慣れている人には違和感なく使うことのできる操作系だとは思います。
他に操作系で特殊なのはシャッターのバルブが無いこと、タイムもレンズ横のTボタンを押してシャッター開放、シャッターボタンを押すことでシャッター閉鎖となっているので独特の操作となっています。タイムは中身の構造を考えると仕方なかったのかもしれませんし、バルブが無いのも同様に中身の構造を考えると仕方ないかもしれませんが、残念な仕様ではあると思います。タイムを使う時はレンズの前を黒いもので覆ってTボタンを押してからレンズ前を覆っている黒いものをどけて露光開始、露光終了時には再びレンズ前を覆ってからシャッターボタンを押すのがブレを防ぐには良いと思います。

ファインダー

ファインダー視野ははっきりと青みがかっています。また距離計の方式が実像式ではなく虚像式であるために二重像の輪郭がはっきりしない上、中判カメラのレンジファインダーにしては二重像がやや薄いので見えにくいと思う人も多いと思います。さらにパララックス補正なのですが、フライトフレーム全体がシフトするのではなく視野の右下が不変のままに左上が縮むだけなので、いまいち使いやすいとは思いません。画角変化の分も同時に補正していると考えることもできますが、私はブライトフレーム全体がシフトする方式の方が好きです。どうせレンジファインダーなのだから厳密なフレーミングはあり得ないとは分かっていてもやはりあまり使いやすいとは思いません。ファインダー周りについてはもう少し何とかならなかったかなあと思う点が多いです。

アクセサリ

専用の純正フードとストロボブラケットが用意されています。フードはこの専用のものでなければ取り付けられません。またこのフードを使わなければフィルターを装着することもできません。富士ご自慢のEBCなだけあってゴーストやフレアは出にくいのでフードは無くても困らないのですが、フィルターを使いたいという人には必須になります。なお露出値の変わるフィルター(PLフィルターなど)を使用すると内蔵の露出計はTTLではないのでフィルターに応じて露出値の補正が必要になります。このフードを付けたままでは畳めないので、フードを常用する人にはストレスになると思います。このページのトップにある写真でもフードを装着した状態になっています。見た目ではフードを付けた方がカッコいいと思っているのでフードを付けて写真を撮りました。こうすると優れたレンズであることの証であるEBC FUJINON S 75mm 1:3.4という銘が正面からは見えなくなるのがちょっぴり残念ですが。専用のストロボブラケットであるGSブラケットは横位置で撮る時に本格的にフラッシュを用いようと思うと必要になると思います。

中古品購入時の注意

蛇腹は交換してなければまずピンホールが開いていると考えておいた方がいいです。また裏蓋周りの遮光性はモルトで担保しているので、モルトが溶けていると裏紙が付いている120フィルムでは平気でも220フィルムでは光線曳きを生じます。このため、中古品を購入する際にはオーバーホール済みのものを買うことを私はおすすめします。試し撮りのフィルムとその現像代、そして掛かる手間を考えるとオーバーホール済みであっても特に高いとは思いません。私は自分の愛用のカメラなだけあって中身がどうなっているのかと興味があってGS645シリーズのリペアマニュアルを購入し所有しているのですが、これを見る限り中身は結構凝ったつくりになっています。特に巻き上げとシャッターチャージのリンク、そしてシャッターボタンからレンズシャッターへのリンクのあたりはかなり凝っています。素人の手に負えるものではありません。ウェブ上では蛇腹を自分で作り交換した人の作業記録なども見つけられるのですが、素人の修理は行うべきではないと思います。私が見つけた一般人が蛇腹交換を行ったというサイトの作業手順も中身の構造を知っていると決して最適な手順ではやっていません。壊してしまうリスク、手間暇、材料費、工具代を考えると業者に任せることは決して高いとは思いません。少なくとも私は確実に撮影に使えるカメラが欲しいのであって、不十分な状態のカメラが欲しいのではないので業者に任せることにしています。適切な修理を施して使っていけば相当の長期間に亘って使えるはずの完全機械式のカメラであるのがこのGS645シリーズですから市場に流通している個体を大事にして欲しいと思います。使用中の事故で失われる個体があることは仕方ないのですが、無謀な素人の分解で失われるのはさすがにもったいない話だと思います。仮に自分でやるとしても最低限の工具は必要ですし、その工具を揃えるのには費用が掛かりますので費用的にも安くはないと思います。
私の経験ではワイドのGS645Wでのことなのですが、モルトが大分溶けてしまって220フィルムでは光線曳きを起こしたのでそれを主症状、他に絞り操作レバーが折れてしまっていたのでそこの交換を同時にして欲しいとしてオーバーホールに出したのですが、巻き上げ発条が脱落していること、フィルムカウンターの文字板がずれていることを指摘されそこも修理されて返ってきました。私が気付いていないところにもプロの目にかかれば問題があったのです。見積もりよりは若干高くついたのですが、たしかに巻き上げの感触は明らかに改善しましたし、主症状であったモルト溶けも確実に修復され、さらにピントリング周りのグリスアップもされ操作が滑らかになって戻ってきたので満足しています。これだけやっても1万円強の修理費で済みました。富士フイルムでGS645の修理をかつて手掛けていて今は独立している人による修理なので信頼できると思います。
シャッターボタンとレンズシャッターのリンク機構についても不調をきたしている個体が少なくないのでここもよく注意して下さい。症状はシャッターボタンを押してもシャッターが切れない、あるいは少し遅れてシャッターが切れるというものです。なおこれは業者に調整してもらうと直ります。不調になる理由はかなり簡単なことなので、修理代もそれほど掛からないでしょう。
また、外観に関することで実害は無いことがほとんどなのですが、ボディにヒビ割れが生じていることも少なからずあるのでここも気にする人は注意した方が良いでしょう。このヒビ割れについては心配であれば内側から補強を加えて確実に光線漏れを防ぐこともできます。