なぜフィルムで撮るのか 2013年時点での答え

僕はもちろんデジカメも持っています。現在主力としているデジカメはリコーGRですからそこそこは良いものということになると思います。素晴らしい高画質とたしかな操作性、そしてこの小ささ。このデジカメを手にして、記念撮影用途にはとても綺麗な写真を残すことができ、さらに作品制作にも堪えるデジカメだと思いました。8万円でこれだけのデジカメが手に入り、さらにフィルム代も現像代も掛からない。素晴らしいことだと思います。最近はフルサイズのミラーレス一眼であるソニーα7も買いましたし満足しています。13万円でα7を買えることは素晴らしいと思います。Capture One Proを購入しRAW現像で一つ一つ仕上げる程度にはこだわっていますし、モニタもAdobeRGB表示可能なものを選んで買っています。PCもRAW現像処理に必要なパワーのあるものを自作しています。プリントも染料では最高の一つCanon PRO-100で行っていますから結構良いものでしょう。カラーマネジメントも完全だとは言えないにせよある程度はやれています。そして何よりもデジタル画像の表現の可能性は果てしないものだと実感しています。
僕はデジタルカメラも好きです。写りも良くなりましたし撮影後のスピード感もあります。物質として存在するフィルムと違って管理さえ適切にすれば理論上完全に無劣化で写真を保管できます。かつて、ニューカラーと言われた時代、カラー写真は色素画像であってこの色素は経年劣化することから、より古くからあるモノクロ写真に対してカラー写真は芸術たりえるのかと真面目に議論されたそうです。デジタルフォトグラフィはその当初には芸術たりえないと論ずる人もいましたが、デジタルフォトグラフィ以前のニューカラーの頃になされた色素の劣化についての当時の議論を参照するに、その保存性においてデジタルフォトグラフィは優っている側面があると思います。ちょっとずつ劣化するフィルムの写真とゼロかイチかで失われるときには一気に失われるデジタル写真の違いとも言えますが。
僕自身、写真に限らず多くのことでデジタル化を進めています。執筆、読書、音楽鑑賞、映画鑑賞、コミュニケーション…。仕事からエンタテインメントまで本当に多くのことをデジタル化しています。デスク周りは紙とペンを大事にしながらもPCも快適に使えるように考慮しています。写真のポートフォリオ管理もフィルムで撮った写真でも紙焼きからであったりフィルムからであったりはしますがスキャンしてデジタル化している部分があります。デジタル技術は僕のライフスタイルに根付いています。
それでもエボニーやリンホフのカメラとシュナイダーやローデンシュトックのレンズを使って作品の制作をしています。いくらか技術的にハードな撮影をしていて、デジカメでならもっと楽に撮れるのにと思うことがありながらフィルムで撮っています。露光やセッティングに対する寛容度の高さはフィルムの方があって、より甘いセッティングでも撮れるのですが、フィルムの場合には写りを確認する手立ては撮影している段階ではありません*1。デジカメの場合は確認しながら撮れるので結果的にセッティングをより緻密に行え、確実に撮れます。さらに最初からある程度後処理前提で撮影しておけば仕上がりのクォリティに影響無く後処理で救えます。また撮影後のスピード感はデジカメが優ります。
プリントの際には当たり前ですがテストプリントをしながら作っていきますが、デジタル画像からのインクジェット出力の方が手軽で準備と後始末も簡単です。私はかなり細かく調整する方のようでデジタル現像においては色や露出のみならずパース感の調整もします。同様のパース感の調整を行うためにフィルムの光学引き伸ばしでは引き伸ばしレンズの光軸を傾けて印画紙を持ち上げたりするのですが、デジタル現像でやった方が手早い上にプリント作業と画像調整が別の工程になるので無駄がありません。
僕の場合はフィルム代と現像代で年間15万円強掛かっています。あまり数を撮る方ではないのですが、これくらいは掛かります。もっと撮っている人はいくらでもいるでしょう。さらに印画紙代とプリントの薬品の費用も都度掛かります。
なぜいまだにフィルムで撮るのかと問われるくらいに現在はなってしまいました。フィルムかデジタルカメラかという問いは割とどうでもよい類のものだと思っていて、こだわるほどのものでもないのだろうと思います。そうであるからこそ、経済性でも利便性でも不利になる一方のフィルムで撮り続けるのはなぜかと問われることになるのだと思います。
一つにはやはりフィルムに慣れ親しんできたからです。前からこれを使っているから今もこれを使うということです。写真家にとってカメラは主人であって、主人を変えることはそれまでの自分との断絶を意味しかねません。僕は変わることが怖いのです。
また一つにそしてより重要なのはプリントを作ることが前提でやっているので、美しいタイプCプリントを得るにはフィルムで撮るのが近道なこともあります。デジタル画像からもタイプCプリントと同様の原理の発色印画プリントを作れますが、やや遠回りです。インクジェットプリントもとても美しくなりました。私がインクジェットプリントしか知らなかったらわざわざフィルムで撮ることはなかったかもしれません。それでも今もなおタイプCプリントが最良だと思うのです。それだけの魅力がタイプCプリントというこの古い技術にはあります。印画紙に露光をして印画紙現像機に流して出てくる画を見るのが楽しいという人もいます。僕はそういうことにあまり楽しみは覚えませんが、出てくるプリントの美しさだけを考えてタイプCプリントに魅力があるのです。
幸い、まだいくつかの高性能かつ美しい画を得られるフィルムと印画紙が市場に流通していて合理的な価格で入手できます。薬品も買えます。フィルムの現像を格安ではないにせよ合理的な価格でかつ高品質に請け負ってくれるプロラボもあります。必要なものはまだ揃えられます。まだやれます。いつまでかは分かりません。でも、まだやれます。
なぜフィルムで撮るのか。まず何よりも美しいプリントを得られるから、そしてフィルムに慣れているから。今はこう答えます。

*1:ポラを切るという方法もあることはあります。しかし今現在においてポラ切りしている人はほとんどいなくなりました。私もポラホルダーを持ち出すことはありません。ポラホルダーは使わないのである時もういいやと売却しました。