Minolta TC-1

GR1とTC-1

先日GR1の中古を購入していました。しかし試し撮りでフィルムを詰めてみると動作不良。GRシリーズはファインダーや液晶、また巻き上げの故障が多いとの評判をもともと知っていたので店頭で念入りにチェックしたつもりでしたが、フィルムを詰めないと分からない不良でした。動作不良でなくても実際にしばらく試用してみるとファインダーの見え方やファインダー内の各種表示などが見難く、正直ちょっと気に入らず、買ったのは失敗かと思っていました。そこで購入店に持ち込み、初期不良返品を願い出て、さらに追い銭をしてMinolta TC-1の購入と相成りました。ちなみにGR1は初代GR1も含めてまだリコーによって修理が行われています。私もカメラ屋さんでGR1の不良について相談した際に、1.修理する、2.初期不良として返品・返金、3.初期不良として他のGR1の在庫と交換、4.初期不良として返品・返金の上追い銭をしてTC-1と交換という選択肢を提示されました。結局4.を選択しました。お店の人は私がTC-1とGR1で散々悩んだことを覚えており、「結局買っちゃいましたね、TC-1」なんて言われました。安いからGR1でいいやって言ってGR1にしたのです。断っておきますが、GR1GR1で素晴らしいカメラだと思っています。私が気に入らなかっただけで。ちなみに同じ画角で28/2.8のレンズを載せたコンパクトカメラとしてはクラッセWも選択肢に上がると思いますが、少し大きいので私の中では「無し」でした。作例を見る限りクラッセは28mmも38mmもレンズはさすがフジノンで素晴らしいのですが、あの筐体サイズはコンパクトカメラとして考えるとちょっと駄目でした。ナチュラのボディでクラッセのレンズだったら考慮したのですが。
サイズ、操作系、ファインダーの見やすさなどレンズの開放F値以外はすべてTC-1の方が気に入っており、また実際にGR1をしばらく使ってみて操作系はたしかによく練り込まれているなと思ったものの、個人的にはそれほど使いやすく感じなかったので、レンズの開放F値には目を瞑ってTC-1にしました。GR1で特に気に入らなかったのは、ファインダーの位置がカメラの中央にあってファインダーを覗きにくいことでした。
写りの違いについては画角がまったく等しいこともありいろいろと比較されるこのGR1とTC-1という2機種ですが、コンパクトカメラなのでそれほどこだわっていません。GR1はそれほど使い込んだわけでもありませんし。どっちも良いということだけは言えます。それほどこだわっていないくせにG-Rokkor 28/3.5のような素晴らしいレンズがついたカメラを買うのはもったいないような気もするのですが、細かい操作性などでいわゆる高級コンパクトの方が廉価なコンパクトよりも優れていて失敗無く撮れるので好きなのです。コンパクトカメラを使う時って気軽な記念撮影が多いのですよね、その時は何よりも失敗無く撮れるということが重要だと思うのです。そのためにはむしろ完全にカメラ任せでしか撮れないカメラよりも、色々と細かく設定を変えられる高級コンパクトの方が向いているのです。私はこのような用途にTC-1を使っているので、フィルムは感度が高いものを使っています。富士フイルム派なのでPro400かNatura1600です。Natura1600ではISO1600設定ではなくISO800に設定しています。Natura1600では定番の使い方ですね。ネガがずいぶん濃くなるので焼きにくいのですが、オーバーに設定した方が発色も粒状性も良くなるのです。オーバーに撮って粒状性が良くなるというのはおかしな話に聞こえるかもしれませんが、Natura1600は低感度の乳剤もミックスされて塗布されているからだそうです。Pro400も常時+1/2段に設定して実質ISO280のフィルムとして使っています。Pro400もややオーバーに撮った方が色が綺麗に出るのです。彩度が低すぎて使いにくいという評判のあるフィルムですが、露光が足りていないだけということも多いのではないかと思います。

持っているだけで楽しいけれど撮るともっと楽しいのがTC-1

「まるで工芸品のよう」といわれることのあるTC-1ですが、実際に手にするとそれがよく分かります。タバコのボックスよりも少し大きいだけのボディサイズに高機能高性能がぎっしり詰まっているのが分かります。フィルムを入れなくても持っているだけで楽しいカメラです。フィルムを入れるともっと楽しいですが。そして撮ったネガからプリントするともっともっと楽しいです。実用機としても愛玩機としても楽しめる機械でしょう。
この工芸品のような印象の割には故障は少なく、中古保証を使うことは少ないとカメラ屋さんは言っていました。GRシリーズの方が故障頻度が高く(ファインダー、液晶、巻き上げの故障が代表的)、中古保証でお店の出費で修理になることが多いのでその分GRシリーズは買い取り値の割に少し高めの値段設定をしているそうです。TC-1は壊れにくく、中古を売る方としては手離れが良いので助かるとのこと。触った感じではGRシリーズの方が丈夫そうな印象なのですが実際は違うようです。あるいはTC-1は工芸品的な魅力があるので死蔵してしまった人が多くて結果的に状態の良い個体が多い、ということがあるのかもしれませんが。とにかく中古で地雷を踏む可能性で比べるとTC-1はGR1よりも良いようです。いずれにしても中古を購入する時は修理覚悟で安く保証無しを買う(GR1もTC-1もまだ修理を受け付けていますので、安く買って修理に出して安心して使うというのも一つの手でしょう。)か中古保証付きのものを買うかがおすすめです。

絞り優先AE専用

さてTC-1の操作系で特徴的なのはプログラムAEが無く、絞り優先AEのみであることでしょうか。さらにその絞り優先AEもF3.5, F5.6, F8, F16しか選択肢が無い(F11が無い!)というのもなかなか割り切った仕様です。まあ明るいところではF16かF8で、暗いところではF3.5で撮ればまず問題無いでしょう。この辺の操作系は絞り優先AEしかないレンジファインダーカメラを彷彿とさせるところがあります。このあたりが普段からレンジファインダーカメラに親しんでいる私にはとても直感的に思えて気に入りました。この小型のボディを実現するためにはどこを割り切ればよいかよく考えられていて、実際にカメラを使う立場から開発を行っているなあと思います。私は一眼レフはニコンのものを使っていてコニカミノルタのものは使っていませんが、CLEやTC-1を使った限り、優れたカメラを生み出してきたメーカーだと思っています。コニミノはカメラ事業をやめてしまいましたが、CLEやTC-1、さらにヘキサーの開発を行った人たちは今は何をしているのでしょうか。
個人的には真円絞りというのにはあまり興味が無いので、普通の絞り羽根を入れて中間絞りも選択できるようにしてくれた方が嬉しかったです。まあ広角レンズな上に開放F値が3.5とあまり明るくないので絞りによる被写界深度のコントロールというのはあまり無く、ほとんど描写と露出のコントロールだけに絞りを用いているので、中間絞りが無くても特に困らないと言えばそうなのですが。しかしF11を設定できないのはちょっぴり不満ではありますね。
絞り優先AEしか無いと言っても、明るいところで絞りを開いた状態で撮ってシャッタースピードの上限値に達してしまったらシャッターを開き切らずに高速シャッター(最速1/750秒)にし、さらにシャッター羽根を絞り羽根として利用する「超自動露出」が作動する(Contax T3が常時同じような動作をして絞り操作していますね。T3には絞り羽根は組み込まれていません。)ので、絞りを開いた状態で撮るのが実質上のプログラムAEモードといえるでしょうか。

スポット測光

コンパクトカメラなのにスポット測光を搭載しているのは特筆すべき長所でしょう。またスポット測光には2つのモードがあり、スポット測光ボタンを押し続けることでスポット測光した露出値を記憶するもの(SP1)と、一回スポット測光ボタンを押すごとに露出値の記憶とクリアを繰り返すもの(SP2)とがあります。個人的には後者の方が使いやすいと思っていますし、実際そのモードで使っています。取り扱い説明書の34頁に操作方法が書いてあります。スポット測光モードはとても使いやすいと思います。なお、スポット測光と言っていますが、受光角は単体スポット露出計のような1度といったごく狭いものではなく、ファインダー中央の円形部分(10度ほどはあるでしょうか)での測光値です。

ファインダー

これだけ小さいと視度補正は省略されていたり別売りの視度補正レンズを使うことが多いのですが、TC-1では内蔵しています。たとえばGRシリーズでは別売りの視度補正アダプターを使うか改造してもらう必要があります。TC-1では-2.5Dから+1.0Dまでの範囲で調整できます。また眼鏡を使ってもシャッタースピード表示と測距表示含めファインダー内全面を見渡せます。細かい点ですが、気持ち良く使うためには重要な点でもあり、ここでも手の込んだことをしているのは流石です。もっとも逆に言うと-2.5Dから+1.0Dの範囲外で視度補正をしたいという時には打つ手がありません。
このファインダーで素晴らしいのは、AFでの測距距離をファインダー内にインジケータで表示することです。コンパクトカメラではAFで撮影したらピントの中抜けをしていたという失敗が多いのですが、何メートル先の被写体にピントを合わせているか表示してくれるのでそのような失敗を未然に防げます。

AF

速度は実用上十分です。精度も十分だと思います。ただし視野中央のフォーカスポイントでしか合わせられません。新しい一眼レフで多く採用されているような多くのAFポイントから自動でフォーカスポイントを決定するなどの便利な機能はありません。記念撮影で他人にシャッターボタンを押してもらう時はここだけは気になるかもしれません。自分と連れ合いの2人が並んだ状態で撮ってもらうと、2人の間の背景にピントを合わせてしまった、という失敗は起こりえます。もちろんAFロックなどは使えるのですが、他人に頼むときにはそんな機能を使ってくれるように言うわけにもいきませんから。この点ではGR1だと中央とその両脇の2点の合計3点のAFポイントがあってそれらを自動で選択してくれるので、GR1の方がTC-1よりも優れていると思われます。(不具合はあったけど)しばらく試用した感想ではGR1のこの3点のAFポイントの選択は結構賢い感じでしたので、他人にシャッターを頼むときには便利だと思います。
TC-1にはMFモードもあるのですが、このモードで撮影距離を設定しておいてもシャッター半押しでいったんAF駆動時と同じようにレンズが駆動してから設定した撮影距離で焦点が合うようにレンズが止まります。そのためGR1でやるようなスナップモードとしては、一瞬の撮影チャンスを逃すと考える人もいるでしょう。カメラは小さい方がいいと言っている森山大道がなぜTC-1ではなくGR1を愛用していたのか疑問に思っていたのですが、ひょっとしたらこの点が理由なのかもしれません。あとは同じGRのボディで21mmレンズを使えるGR21の存在もあるのかもしれません。広角馬鹿な私としてはTC-1のボディで21mmレンズを載せたものがあったら嬉しかったところですが、今更言っても仕方ないことでしょう。むしろGR21が特異過ぎる存在です。

その他操作系

操作方法についてはまずは取り扱い説明書を見て下さい。後述の通り今もコニミノがPDFで配布しています。
実際に使用してみて気付くことは、まずシャッターの感触がとても軽くまた半押しと全押しの間で明確なクリック感が無いことです。これは良し悪しですが、私は手ブレを防ぐという観点からは気に入っています。一方で半押しのつもりが意図せずシャッターを切ってしまう事故があるから嫌だという人もいるでしょう。
レンズの繰り出し音はフィルムのコンパクトカメラとしてはおおむね普通の部類に入ると思います。いわゆる高級コンパクトの中では五月蠅い方に入ります。電源を入れるとジーッという音とともにレンズがせり出します。さらに測距のたびに電源投入時よりも少しだけ小さくジーッと音がします。もう少し静かな方が嬉しいという人も多いでしょうが、コンパクトカメラではこのくらいの音がするのが普通です。もちろん静かな方が良いのですが。シャッター音はレンズシャッターであることもあり、非常に静かです。動作音はシャッター音よりもAF動作音とフィルムの巻き上げ音が主です。フィルムの巻き上げ音もいたって普通の電気巻き上げの音がします。とにかく静かな方がいいという人は、画角は違いますがRollei35だとフルマニュアルで静かなので良いかもしれません。またコンパクトカメラの範疇からは外れますが、ライカのM型カメラは静かな動作音に定評があるのでそちらも良いでしょう。最近のコンパクトデジタルカメラの静かさに慣れていると、フィルムのコンパクトカメラは動作音が気になるという人も多いとは思います。しかしコンパクトデジタルカメラよりもはるかに大きな結像面を持っているものなので、その分だけ音がします。コンパクトデジタルカメラだとフィルムの巻き上げはありませんし、シャッターもレンズシャッターなので非常に静かですね。ちなみにAPS-Cと4/3の中間のセンサーサイズを持つのがシグマのDPシリーズですが、これはレンズの全群繰り出しではなくインナーフォーカスなのでAF動作音はフィルムのコンパクトカメラに比べるととても静かです。でも起動時のレンズ繰り出し音はやっぱりフィルムコンパクトカメラと同様の音がします。
地味なところですが良い点は、これほどの小型ボディですが電池はCR123Aを使っているところです。大容量の電池なので電池交換頻度が低く撮影に専念しやすいです。
これまた地味なところですが不満に感じるかもしれないことはデータバックが無いことです。またデート印字機能もありません。私は撮影データはもともと付けない人なんでどうでもいいのですが、不満に感じる人はいると思います。デート印字機能はたまに欲しくなります。
現像してみると、コマ間がきれいに揃います。カメラの造りが非常に良いことがここからもうかがえます。

取り扱い説明書

http://ca.konicaminolta.jp/support/manual/ls/ht.html
ここからダウンロードできます。中古で購入するなどして取り扱い説明書が付属しなかった場合はこちらを参照して下さい。こういうのをきちんと残しておいてくれるあたりコニミノは親切ですね。

ストラップ

ストラップ穴が一つしかないので、普通はハンドストラップを使うことになると思います。しかし首からぶら下げて撮影散歩を楽しみたいということもあるでしょう。そのような時に使える非純正のレザーのネックストラップだとImageniqueのレザーネックストラップがあります。私も持っています。金具が金色でまた少し安っぽさを感じるメッキなのでTC-1のチタンボディにちょっと似合わないのがちょっぴりだけ気に食わないのですが、安めですしおおむね満足しています。このエントリーのトップの写真はこのImageniqueのネックストラップを取り付けた状態です。

まとめ

コンパクト機の一つの頂点に君臨するカメラ。最近は中古価格も落ち着いていますし、買ってまず損は無いでしょう。操作しやすい機体なので気軽な撮影や記念撮影にもよく合います。さらにレンズは基本性能が高い上に味もあるのでレンズを味わいたいという人にも向いていると思います。レンズが高性能で露出の制御などもしっかりできるので、いわゆる作品撮りにも使えると思います。カメラと写真を愛する人すべてにオススメできるカメラです。このような素晴らしいカメラを産み出した旧ミノルタの開発陣に敬意を表したいと思います。

緒元

  • レンズ: Minolta G-Rokkor 28/3.5(5群5枚)
  • オートフォーカス: 外光パッシブ方式(暗所補助光付)、フォーカスロック可能、中央部のみAFポイント
  • 撮影距離: 0.45m〜無限遠
  • 露出制御: 絞り優先AE(F3.5、F5.6時高輝度側超自動露出付)
  • 絞り: F3.5、F5.6、F8、F11(真円絞り)
  • 測光方式: 外部(非TTL中央重点測光/スポット測光
  • フィルム感度: DXコード自動読み取り(マニュアル設定あり、ISO6〜ISO6400、1/3EVステップ)
  • フラッシュ: 発行禁止、強制発光、夜景ポートレートの3モード
  • 露出補正: プラスマイナス4EV(1/2EVステップ)
  • ファインダー: 実像式、視野率85パーセント以上(3mの被写体に対して)、倍率0.4倍、視度調整内蔵-2.5から+1.0ディオプトリ
  • セルフタイマー: 10秒または2秒、作動中はランプ点滅で告知
  • 電源: CR123AまたはDL123Aを1個
  • 大きさ・重さ: w99×h29.5×d29.5mm・185g(電池別)

作例

いずれも片貝川の洞杉です。たしか両方とも開放で撮っていたはず。データ付けていないので曖昧です。