三栖幸生展 "時景(ときけい)"

作者が身の回りの景色を撮るようになったのは、懐かしい景色がどんどん変わっていくことへの郷愁を残しておかなければとの小さな使命感のせいだった。
撮り始めた頃は、日本全体が生活のリズムを無視したかのように激しく動いたときである。東京近郊の作者の住む町も日々に変化していた。バブルに踊らされ、そしてはじけた時代背景の中、変化する瞬間、懐かしい風景、気になった景色などにレンズを向けた。思いがけない景色に出会い、感動もした。そして作者は、新しくなることが文化なのだろうかと思った。
1990年から2008年までの19年間に、神奈川県の県央地区と呼ばれる厚木市相模原市大和市、海老名市、座間市伊勢原市綾瀬市秦野市愛川町清川村とそれらの地域に隣接する横浜市川崎市、町田市等が主な撮影地で、その景色はほんの数年経っただけなのに、今はすっかり変わってしまっているところが多い。しかし、写っているものはその時代に確かにそこにあったものである。
見慣れていたはずの景色は、時間の経過とともに作者の記憶の外に流れ去って、その景色は以前からの変わらぬ景色に映ってしまう。モノクロ60点。

銀座ニコンサロンにて。作家は現在の風景の中に高度成長期の頃の面影を探しているように見えた。作者の心にはその時代が懐かしく刻み込まれているのだろう。
http://www.nikon-image.com/jpn/activity/salon/exhibition/2009/08_ginza-1.htm